音声反応が明かす 極低出生体重児の言語発達と感覚の特性

掲載日:2024-8-19
研究

 金沢大学人間社会研究域学校教育系の吉村優子教授,附属病院周産母子センター(小児科)の三谷裕介講師,医薬保健研究域医学系の和田泰三教授,菊知充教授,子どものこころの発達研究センターの池田尊司准教授らの研究グループは,北海道大学,秋田大学の研究者らと共同で,極低出生体重(※1)で出生した 5~6 歳児において,ヒトの声に対して左半球の聴覚野の反応が大きいほど,言語能力が高く,一方で感覚特性として過敏の状態が高いことを報告しました。

 極低出生体重(Very Low Birth Weight)は,言語や感覚運動などを含む認知発達に影響を与える割合が高いことが報告されています。 本研究グループらのこれまでの研究から,音声(ヒトの声など)によって引き起こされる脳反応(P1m) (図 1)(※2)は,幼児の言語発達の指標であることが示唆されていましたが,極低出生体重児における有効性についてはまだ解明されていませんでした。 さらに幼児において聴覚誘発反応(P1m) と感覚特性との関係は不明のままでした。そこで本研究では,1500g 未満の体重で出生した 5~6 歳の子どもたちを対象に,ヒトの声に対する脳反応を小児用脳磁図(MEG)で捉え,言語発達や感覚特性との関連を調べました。その結果,これらの幼児において,ヒトの声によって引き起こされた左半球の脳活動の大きさと言語能力および感覚過敏(※3)の特性との間に統計学的に有意な相関がみられました(図 2,図 3)。

 本結果を通して音声誘発反応(P1m)が言語能力と感覚過敏の重要な予測因子として機能することを明らかにしたことで,早期介入プログラムの開発や調整が可能になることが期待されます。聴覚誘発反応を利用したスクリーニングや評価ツールの開発は,早期に言語発達に関するリスクや個々の特徴を客観的に評価し,必要なサポートを提供することで,長期的な教育成果や社会的適応を改善する可能性があります。本研究は極低出生体重児の発達を適切に理解しサポートするための情報と手段を提供することを目指すものです。

 本研究成果は,独国時間 6 月 21 日午前 0 時(日本時間 6 月 21 日午前 7 時)に科学雑誌『Pediatric Research』のオンライン版に掲載されました。

 

図1:ヒトの声によって引き起こされる聴覚野の反応(P1m)の例

先行研究からは,このP1mの反応の大きさが幼児の言語能力と関連することが示されていました。

 

 

図2:ヒトの声によって引き起こされる聴覚野の反応と言語の概念的推論能力の関係

 

図3:ヒトの声によって引き起こされる聴覚野の反応と感覚過敏特性の関係

 

 

【用語解説】

※1:極低出生体重
 生まれた時の体重による分類で,2500g 未満を「低出生体重児」,さらにその中で 1500g未満を「極低出生体重児」と呼びます。

※2:P1m
 MEG(脳磁図)で計測される聴覚誘発磁場(auditory evoked magnetic field, AEF)の成分の一つです。聴覚誘発成分の中で,P1m は約 50~80ms の最も早い段階に現れるピークを指し,小児では約 100ms 前後に観察されます。約 10 歳までの子どもに特に顕著にみられる成分です。

※3:感覚過敏
 聴覚,視覚,触覚や嗅覚などの感覚が過剰に敏感な症状。感覚過敏があると,たいていの人なら無視できるような状況や刺激を無視できなかったり,過敏に反応したりすることがあります。そのため,感覚過敏によって日常生活や園,学校などの社会生活で困難が生じることがあります。

 

 

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ジャーナル名:Pediatric Research

研究者情報:吉村 優子

 

 

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