矢野 聖二さん 写真
Research NEWS

肺がん治療標的タンパク質の全貌と阻害薬による構造変化を解明!

医薬保健研究域医学系/ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)
矢野 聖二YANO, Seiji

 –

 金沢大学医薬保健研究域医学系呼吸器内科学/ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の矢野聖二教授、WPI-NanoLSI の古寺哲幸教授、がん進展制御研究所ゲノム生物学研究分野/WPI-NanoLSI の酒井克也准教授らの共同研究グループは、肺がんの代表的な治療標的である EML4-ALK 融合タンパク質の全体構造を、世界で初めて高速原子間力顕微鏡で可視化しました。さらに、その阻害薬によってこのタンパク質の構造が変化し、そのことが抗腫瘍効果の一因となることを初めて明らかにしました。

 EML4-ALK 融合遺伝子(※1)は、共同研究者であり現国立がん研究センター理事長の間野博行博士らが 2007 年に発見した肺がんの約 3%に検出される肺発がん遺伝子異常です。この異常遺伝子から作られる EML4-ALK 融合タンパク質により発生した肺がんには ALK キナーゼ阻害薬が劇的な抗腫瘍効果を示すことが知られています。しかし、これまで EML4-ALK 融合タンパク質の全体構造や動態は未解明であり、ALK 阻害薬(※2)が構造にどのような影響を与えるのかも不明でした。

 本研究グループは、EML4-ALK 融合タンパク質の精製に世界で初めて成功し、ナノ生命科学研究所が開発している高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)(※3)を用いて、その全体構造や動態をリアルタイムで観察することに成功しました。その結果 EML4-ALK 融合タンパク質は、紐状の EML4 と球状の ALK が結合した形態をとり、単体でも存在しますが二量体や三量体(オリゴマー)を形成することが明らかになりました。さらに、ALK 阻害薬(アレクチニブ、ブリグチニブ、ロルラチニブなど)は紐状構造を持つ EML4の畳み込みを引き起こし、EML4-ALK 融合タンパク質の二量体化および三量体化を抑制することを見出しました。これらの結果から、ALK 阻害薬は ALK キナーゼ活性を抑制するほかに、EML4-ALK のオリゴマー化を抑制することで、抗腫瘍効果を発揮することが示唆されました。

 本研究成果は、EML4-ALK 融合タンパク質の構造の全貌を可視化し、ALK 阻害薬の新しい抗腫瘍メカニズムを明らかにしたことで、今後の分子標的薬開発の起爆剤になることが期待されます。

 本研究成果は、2026 年 1 月 20 日(現地時間)に米国化学会機関誌『ACS Nano』にオンライン掲載されました。

 

 

図:原子間力顕微鏡で観察したEML4-ALK融合タンパク質

 

 

図:原子間力顕微鏡で観察したEML4-AKL融合タンパク質の構造とALK阻害薬による変化

 

 

【用語解説】
※1 EML4-ALK 融合遺伝子
 EML4(echinoderm microtubule-associated protein-like 4)遺伝子とALK (anaplastic lymphoma kinase)遺伝子のそれぞれ一部が融合してできる。EML4 はさまざまな部位で切断され 15 種類以上のバリアントが存在するが、ALK はエクソン 20 の N 末端側で切断されチロシンキナーゼドメインをコードした部分が保存されている。

※2 ALK 阻害薬
 ALK チロシンキナーゼの阻害薬として、第一世代のクリゾチニブ、第二世代のアレクチニブ、ブリグチニブ、第三世代のロルラチニブが日本では承認されている。クリゾチニブやアレクチニブは ALK キナーゼドメインに生じる G1202R 変異で耐性となるが、ブリグチニブやロルラチニブは G1202R 変異にも有効とされている。

※3 高速原子間力顕微鏡(HS-AFM : High speed atomic force microscope)
 ナノスケールのサンプルを大気中でも溶液中でも「動画」で可視化できる顕微鏡。 従来型 AFM には、静止画でしか撮れないという重大な欠点があった。 従来型 AFM の「走査速度の遅さ」を克服し、リアルタイム動画測定を実現した。

 

 

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:ACS Nano

研究者情報:矢野 聖二
      古村 哲幸
      酒井 克也

関連情報

医薬保健学総合研究科?医薬保健学域医学類?ホームページ:https://www.med.kanazawa-u.ac.jp/

ナノ生命科学研究所 ホームページ:https://nanolsi.kanazawa-u.ac.jp/

がん進展制御研究所 ホームページ:http://ganken.cri.kanazawa-u.ac.jp/

 

 

FacebookPAGE TOP