遠くの情報が観測できる「電磁波」との出会い

スマートフォンやパソコン、GPS―私たちの生活に欠かせないこれらの技術は、実は「電磁波(電波)」という”見えない波“に支えられている。しかし、尾﨑先生が高等専門学校に入学した当初、それらの仕組みについて深く考えたことはなかった。ただ、便利な道具として使っていたにすぎない。尾﨑先生にとって大きな転機となったのは、高等専門学校の授業で初めて「電磁波」について学んだこと、そして、その授業を教えてくれた先生との出会いである。電磁波を使うと、ものすごく遠く離れた場所(例えば宇宙)の情報を調べることができると知ったときに強い衝撃を受けた。さらに、その電磁波の魅力を教えてくれた先生が、南極地域観測隊の参加経験者であったこともあり、南極地域で観測されたオーロラのデータ解析に携わる経験も刺激となった。そして、いつしか「探査機や人工衛星などを打ち上げて観測する“その場”の宇宙の様子だけではなく、探査機や人工衛星が直接観測できない“もっと広い”宇宙の様子を電磁波で知りたい」という思いが芽生えていった。
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オーロラ観測から分かった宇宙の磁場環境
尾﨑先生が取り組むのは「電磁波計測工学」。電磁波をいかに精密に計測するかを追究するだけでなく、電磁波の遠くに伝わるという性質を利用し、電磁波を計測することによって遠くの情報(例えば、宇宙に漂うプラズマの数や温度)を引き出すことも研究対象としている。尾﨑先生は、金沢大学に在籍しながら南極地域観測隊に参加した経験を持つ。現地では、オーロラ観測を行う研究部門に所属し、電磁波を用いて、肉眼では見えないようなオーロラや昼の明るいときのオーロラの観測に尽力した。なぜオーロラが発生するのかは、不明なことも残っているが、現在までに宇宙の磁場の環境が乱れることが影響し発生することが分かってきている。電子通信産業が高度に発展する現代社会において、宇宙の磁場環境が私たちの生活に及ぼす影響は決して小さくない。尾﨑先生は、電磁波を利用した宇宙の磁場環境をいかに精密に計測するか、また、得られたデータを正確に解析し理解できるか、さらにそれらから新たなサイエンスをいかに見出すか―そのすべてに取り組むことが大切であると熱く語る。
広がる人工衛星サービス、より良いサービスの提供への貢献
現在、宇宙ステーションや人工衛星などによって、宇宙環境について解明が進められているが、いまだ分からないことも多い。2030年代には世界で有人の月探査や火星探査を目指すことが予定されており、今後ますます宇宙探査や人工衛星を活用した通信産業における国際競争は一層激しくなるだろう。「競争相手は世界。競争は激しい」と語る尾﨑先生。これまでも海外の研究者との共同研究や研究者の受け入れにも積極的に取り組んできている。国内だけでなく海外の研究者とディスカッションできる環境を整えることは、「異なる視点やアイデアに気が付かせてくれることが非常に多い」と話す。
現在も、人工衛星の打ち上げにはまだまだコストも時間もかかるのが現実である。尾﨑先生の研究は、低コストで高性能、かつ超小型化された観測機器の開発を目指しており、それらを搭載した人工衛星が遠く離れた宇宙空間で活躍する日も近いかもしれない。「これまで培ってきた知識と技術を活かし、今後ますます拡大していくであろう人工衛星サービスに対して、より良いサービス(例えば、通信局の小型化?可搬化により、災害時や遠隔地でも通信確保を容易にするなどの通信インフラ強化)の提供に貢献したい」と尾﨑先生はそう語り、目を輝かせる。
(サイエンスライター?見寺 祐子)