第8回超然文学賞 結果発表?講評

受賞者が決定しました!おめでとうございます!

令和7(2025)年7月1日(火)から8月20日(水)の期間に募集しました「第8回超然文学賞」に御応募いただき,ありがとうございました。各部門の応募作品の中から,審査員による厳正な審査の結果,下記のとおり受賞者を決定しましたので,お知らせします。

 

小説部門

? 氏名  作品名  所属学校?学年
最優秀賞 古谷 汐埜 誰でもなく、私 京都市立日吉ケ丘高等学校            3年
優秀賞 堀内 愛花 陸風 東京都立新宿山吹高等学校            1年
優秀賞 松本 凛 リボンのことで 愛知県立瀬戸高等学校              3年
佳作 井口 穂香 存在のドレスコード 新潟県立高田高等学校              3年
佳作 山田 琉歌 傘が咲く。 金沢大学人間社会学域学校教育学類附属高等学校  2年
佳作 橋場 達彦 白ユリが散るとき 愛知県立時習館高等学校             3年

短歌部門

? 氏名  作品名  所属学校?学年
最優秀賞 福田 匠翔 一段と高く 名古屋高等学校          3年
優秀賞 佐藤 みちる クリームイエロー 宮城県気仙沼高等学校       3年
優秀賞 森岡 千尋 見つめる 神奈川県立光陵高等学校      2年
佳作 植木 光太郎 風が吹く 栃木県立大田原高等学校      3年
佳作 東野 礼豊 しゃっくり 名古屋高等学校          2年
佳作 水野 結雅 重力

愛媛県立今治西高等学校伯方分校  3年

?
※優秀賞および佳作の記載順は学校が所在する都道府県コード番号順

講評

総評:AI的予定調和を超えていくもの

金沢大学人間社会研究域人文学系教授 佐藤文彦

 第8回超然文学賞は、以上のように受賞作が決まりました。今回の応募総数は小説部門が35作、短歌部門が29作。うれしいことにいずれも過去最多です。審査委員はすべての作品に目を通し―その際、応募者の氏名?学校名?学年など、タイトルと作品以外の情報はすべて伏せられます―、審査に臨みました。その結果、小説部門も短歌部門も最優秀から佳作まで、全席を埋めることができました。今回の審査の特徴として、いずれの部門も予定時間を超過するほど、激しい議論が交わされた点が挙げられます。そんな審査委員会の模様を振り返りつつ、受賞作だけでなく全体を通して言えること?言いたいことを以下に記します。

 

 まずは小説部門から。

 すべての作品が五段階で評価されるということは、去年の講評で里見先生がお書きになった通りです。委員会では、おしなべて評価の低いもの、ひとりまたは少数の学内審査委員(教員)がC評価を付けたもの、里見先生だけがC評価を付けたもの、と徐々に絞っていくのですが、その過程のかなり早い段階で里見先生から、「今年は目新しいもの、これまでにないタイプの作品を入れたいですね」という発言がありました。あいにくこのコメントとともに先生が推された作品は選に漏れましたが、このひと言は審査の間中、私を含めた学内審査委員に強い印象を残しました。

 はたして今回の受賞作に「目新しいもの、これまでにないタイプの作品」があるかどうかは、今後刊行される『受賞作品集』を読んで探してください。私個人としては、竜の仔育てから死までを描いた優秀賞受賞作「陸風」のスケールの大きさ、「僕」と自称する主人公(竜)の内面、具体的には誇りから焦り、あきらめまでを、かぎかっこ付きの会話文なしで描き切ったテクニックは新鮮でした。

 もうひとつの優秀賞受賞作「リボンのことで」も、超然文学賞に初めて選出された歴史小説という点で立派に目新しいです。しかも扱われる時代?舞台はナチス時代のドイツ。20世紀ドイツ児童文学を研究する私の専門領域と同じなのは偶然として、時代考証の確かさ、「私」が収容所に送られたあとの描写の生々しさ、時間の流れを含めた構成の妙などは、歴史小説で応募されたこれまでの作品とは一線を画すものでした。

 他方、最優秀賞受賞作「誰でもなく、私」は、女子高校生の日常を丁寧に見つめている点で、これまでの受賞作と似ているかもしれません。正直なところ、本作と「リボンのことで」のどちらを最優秀に選ぶかで、審査委員の評価は割れました。そのことは、まとまった作品?オーソドックスな作品を取るか、それともとんがった作品?個性的な作品を取るかの対立に普遍化できるでしょう。今回は、悪意なく主人公を追い詰める母または弟の描写がリアル、「ヤングケアラー」という他者による定義づけへの「私」の違和感が自己省察にまで高められているという指摘を踏まえ、前者が選ばれましたが、両者の差はあまりないことは強調しておきます。つまりどちらのタイプだって、最優秀を狙えるのです。

 なお、作品世界はまったく違えど、2作ともみなさんと同年代の女性の「私」と弟、そしてわかり合えない母の物語、換言すると父親不在の家族の物語である点は共通していました。さらに「陸風」を含め3作とも、規定の枚数いっぱいまでは書いていない点も共通していました。佳作に選ばれた作品、惜しくも選に漏れた作品は、書き込みすぎて紙幅に余裕がなく、改行や空行がおろそかなものが多いのに対し、これら3作は推敲に推敲を重ねた跡が見られました。必ず15首揃えなければいけない短歌と違い、小説は削る勇気も必要です。

 

 続いて短歌部門について。

 毎年、恥を忍んで告白していますが、私を含めた学内審査委員(教員)の多くは、短歌に詳しくありません。その結果、短歌の評価は小説以上にばらつきが出ます。小説同様、短歌も五段階評価の低いものから順に絞っていくのですが、委員会の数日前に全員の評価表を受け取った私は、事前の仕分けに悩みました。『受賞作品集』に掲載する3本を選ぶ以前に、佳作を含めた受賞作6本に絞り込む作業から難航するのではないか、と。はたして当日、予想以上に苦労しました。それは候補作が少なかったからではなく、入選させたい作品が7本以上あったからです。

 総評なので(落選した)個別の作品への言及は避けますが、ワンテーマで15首揃えるのが難しかったのか、途中で息切れした作品もありました。それなりに目を惹く歌は多いものの、飛びぬけてすごいと思わせる歌がないと評された作品もありました。せっかくの素材がすでによく詠まれているものであるため(と、われわれも黒瀬先生からレクチャーを受けて初めて知りました)、個性を発揮しにくかった作品もありました。

 では、どういった作品が最優秀または優秀に選ばれたのでしょうか。佳作との違いはどこにあるのでしょうか。個々の受賞作の講評は黒瀬先生におまかせするとして、上位3作にはいずれもプロの黒瀬先生が「秀歌」と評する歌が1首はあったように思います。そしてその歌は、われわれ素人もどこか気になったり、15首を通して読んだあとにも残るものであったりしました。具体例を挙げずに言っているので、抽象的すぎて伝わりにくいかもしれません。なので別の言い方をしますと、上位3作はシングルヒットばかりではなく、二塁打とかホームランとか、しっかり長打も打てていたということです(野球に例えた結果、ますますわからなくなった方はごめんなさい。だけどもう少しお付き合いください)。それでも全打席出塁するのは大谷選手だって不可能です。ネットでよくある表現みたい、どこかで聴いたラブソングの歌詞みたい、と思わせる歌だってなかにはあります。とはいえそれでも、そういったダメな歌を補って余りある「秀歌」を差し挟めるかどうかが、評価を分けたように思います。

 今回の上位3作は本当に僅差でした。どれだけ議論しても最優秀1本を選ぶのは難しく、最後はM-1方式で決選投票を行いました。小説も含めて近年、飛び抜けたもの?跳ね上がったものが少ないのは事実です。われわれもついつい安心して読めるものを選びがちです。だけどこれからは、この総評の冒頭に立ち返り、AI的予定調和を超えていくもの、規格外の作品(もちろんいい意味で)により焦点を当てていきたいと考えています。

 

小説部門 講評  審査委員:小説家 里見蘭

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短歌部門 講評  審査委員:歌人 黒瀬珂瀾

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表彰式

日時:令和7(2025)年10月18日(土)14:00~15:30

会場:金沢市内

「超然特別入試」超然文学選抜

令和8年度入試出願期間:令和7(2025)年11月1日(土)~8日(土)

入学者選抜要項?募集要項等詳細はこちら

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